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和歌山地方裁判所 昭和56年(ワ)408号 判決 1983年2月15日

原告

宮本圭教

ほか一名

被告

岸田昭憲

ほか二名

主文

一  被告山本晴彦は、原告らに対し、金四九八万七二四一円及び内金四五三万七二四一円に対する昭和五三年一一月一〇日から、内金四五万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告山本晴彦に対するその余の請求及び被告岸田昭憲、同山本博に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告らと被告山本晴彦との間に生じたものは、五分し、その三を同被告の、その余を原告らの各負担とし、原告らと被告岸田昭憲、同山本博との間に生じたものは、原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、連帯して各金七五〇万円及び各内金七二一万二九四六円に対する昭和五三年一一月一〇日から、各内金二八万七〇五四円に対する被告岸田昭憲において昭和五六年一〇月二一日から、被告山本博、同山本晴彦において同月二二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡宮本雅好(以下亡雅好という。)は、昭和五三年一一月一〇日午前零時一〇分頃、京都市左京区下鴨高木町三七番地先国道三六七号線路上で、被告山本晴彦(以下被告晴彦という。)の運転する普通乗用自動車(京五五ふ五三五一号、以下加害車両という。)に同乗中、被告晴彦が時速約九〇キロメートルで東進中右にカーブしている道路を進行する際、スピードの出しすぎによりハンドル操作を誤り歩道柵に自車右前部を衝突させたため、その衝突により車外に放り出され、脳挫傷、頭蓋骨骨折、上頸骨折、顔面挫傷、後頭部挫傷の傷害を負い、約四時間後同区高野竹屋町二〇番地根本病院で死亡した。

2  被告晴彦は、自己のために加害車両を運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法第三条により本件事故により被つた亡雅好及び原告らの損害を賠償する責任がある。

被告岸田昭憲、同山本博(以下被告博という。)は、昭和五三年一二月末、原告ら居宅において、被告晴彦の原告らに対する本件事故による損害賠償義務を引受けた。

3  亡雅好及び原告らが本件事故により被つた損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 四五万四九七五円

(二) 諸雑費 五〇〇円(入院一日分)

(三) 文書料 一三〇〇円

(四) 亡雅好の逸失利益

亡雅好は、本件事故当時、京都コンピユータ学院一年生に在学中(当一九年)で、昭和五三年一〇月二〇日施行の国家試験「第二種情報処理技術者試験」に合格していたもので、本件事故により死亡しなければ、一九歳から六七歳まで四八年間就労でき、その間年収一七八万二九〇〇円(賃金センサス昭和五二年第一巻第一表産業計、企業規模計「高専・短大卒」の「二〇歳―二四歳」の給与額にベースアツプ分として五パーセントを加算した額)を下らない収入を得ることができたのに、本件事故による死亡のため右収入を失つたのであるから、同人の生活費として収入の五割を控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除してその逸失利益の本件事故時における現価を算定すると、二一五〇万七一二二円(1,782,900×〔1-0.5〕×24.126)となる。

なお、原告らは、亡雅好の父母として亡雅好の損害賠償請求権を法定相続分に従い二分の一宛相続した。

(五) 葬祭費 七三万八七七〇円

(六) 原告らの慰藉料 各六〇〇万円

(七) 弁護士費用 五七万四一〇八円

4  原告らは、自動車損害賠償責任保険金二〇二七万六七七五円を受給し、右各損害額合計三五二七万六七七五円の内金に充当した。

5  よつて、原告らは、被告らに対し、連帯して右各損害金残額一五〇〇万円の半額七五〇万円宛及びこれから弁護士費用を除く各内金七二一万二九四六円に対する本件事故の日である昭和五三年一一月二〇日から、各弁護士費用二八万七〇五四円に対する本件訴状送達の日の翌日である被告岸田において昭和五六年一〇月二一日から、被告博、同晴彦において同月二二日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、前段の事実は認めるが、後段の事実は否認する。

3  同3の事実中、(五)のうち原告らが亡雅好の父母として同人の損害賠償請求権を法定相続分に従い二分の一宛相続したことは認めるが、その余の事実は争う。

4  同4の事実中、保険金受領の事実は認める。

三  抗弁

1  被告晴彦は、本件事故当日、京都に居住する友人広重敏雄方に遊びに行つたところ、偶々同人の友人で京都コンピユータ学院学生の亡雅好も遊びに来ており、同人らが更に友人で同学院学生の尾花を迎えて焼肉パーテイーをすることを相談のうえ、広重においてパーテイーの準備するから、亡雅好の案内で尾花を迎えに行くよう加害車両の運転を頼むので、同日午後一一時過ぎに亡雅好を乗車させて出発し、亡雅好の案内で尾花方に行き、帰りは亡雅好、尾花の案内で運転中、本件事故を惹起したもので、深夜のパーテイということでお互に急いでおり、行き帰りともかなりの速度を出して運転していたが、勿論これは自らの意思でなく、右同乗者らもこれを了解しており、速度の出しすぎについて注意しあうこともなかつた。

右事情を勘案すると、本件事故は、ひとり被告晴彦の過失による事故ではなく、同乗者である亡雅好にも責任の一担があるものといわねばならず、損害額の算定にあたつてはこれを斟酌すべきである。

2  被告晴彦は、原告らに対し一〇〇万円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は争う。

2  同2の事実は認める。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1の事実、同2の事実中、被告晴彦が自己のために加害車両を運行の用に供していた者であることは、当事者間に争いがない。

右事実によると、被告晴彦は、自動車損害賠償保障法第三条により亡雅好及び原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償すべき義務がある。

ところで、原告らの被告岸田、同博が右損害賠償義務を引受けたとの主張につき判断するに、証人宮本鉄雄の証言によれば、訴外宮本鉄雄は、原告圭教の弟で、原告らの依頼により、被告晴彦の祖父である被告岸田、父である被告博との間で、昭和五四年三月頃から本件事故による損害賠償につき示談交渉をかさねたが、合意に達することができず、誠意がないと判断して本訴に至つたことが認められ、同証言によると、右交渉途中において、被告岸田が、原告らの一人息子を亡くしてしまい申し分けない、いかなる償もするから許してやつてほしいと云つたことが認められるが、右示談交渉の経緯に徴すると、右事実をもつて同被告が被告晴彦の右損害賠償義務を引受けたとはいまだ認め難く、他に原告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告らの被告岸田、同博に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

二  次いで、亡雅好及び原告らが本件事故によつて被つた損害につき判断する。

1  治療費

原本の存在及びその成立に争いのない甲第一三ないし第一五号証、第一六号証の一・二、原告宮本圭教本人尋問の結果によれば、亡雅好が橋本病院に対し治療費四五万四九七五円を負担したことが認められる。

2  諸雑費

亡雅好が橋本病院に一日入院中諸雑費として五〇〇円の支出を余儀なくされたことは経験則上明らかである。

3  文書料については、これを認めるに足りる証拠がない。

4  亡雅好の逸失利益

成立に争いのない甲第一号証、第三号証、原告宮本圭教本人尋問の結果によれば、亡雅好は、本件事故当時一九歳(昭和三四年八月一〇日生)で、京都コンピユータ学院一年生に在学し、昭和五三年一〇月二〇日施行の国家試験「第二種情報処理技術者試験」に合格し、同学院卒業後コンピユータ関係の仕事に就くようになつていたことが認められるので、亡雅好は、少なくとも満二〇歳から満六七歳に達するまでの四七年間右職業に就いて収入を挙げえたであろうことが推認できる。そして、労働省統計情報部編賃金センサス昭和五四年第一巻第一表によると、同年度の男子労働者の産業計・企業規模計の「高専・短大卒、二〇歳から二四歳」の平均年間給与額は、一八一万八七〇〇円であることが認められる。他方亡雅好の年間の生活費は右収入の五割を要するものと考えるのが相当であるから、以上を基礎に亡雅好の逸失利益の本件事故当時における現価をホフマン式計算法により算出すると、次の算式のとおり二一〇七万三二七六円となる。

1,818,700×0.5×(24.1263-0.9523)

5 葬祭費

原本の存在及びその成立に争いのない甲第四号証、原告宮本圭教本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第五号証の一・二、第六、七号証、第八、九号証の各一・二、第一〇ないし第一二号証、第一七号証によると、原告らは、亡雅好の死亡に伴い同人の葬儀をし、その費用とし七三万八七七〇円を支弁したことが認められる。

6 原告らの慰藉料

原告宮本圭教本人尋問の結果によれば、亡雅好は原告らの一人息子で、原告らは、その将来を期待していたもので、亡雅好の死亡により著しい精神的苦痛を蒙つたことが認められる。このような精神的苦痛に対する慰藉料は、本件に関する諸般の事情を考慮すると、原告ら各自に対しそれぞれ五〇〇万円をもつて相当と認める。

7 過失相殺

前記一の事実に被告山本晴彦本人尋問の結果をあわせ考えると、被告晴彦は、本件事故当日、京都在住の友人広重敏雄方に遊びに行つたところ、偶々同人の友人で京都コンピユータ学院学生の亡雅好も遊びに来ており、同人らが更に友人で同学院学生の尾花を招き焼肉パーテイーをすることを打ち合せ、広重においてパーテイの準備をするので、自動車運転免許を取得している被告晴彦に対し、亡雅好の案内で尾花を迎えに行くよう広重所有の加害車両の運転を頼むので、同日午後一一時過ぎに亡雅好を乗車させて出発し、亡雅好の案内で尾花方に行き、帰りは亡雅好、尾花の案内で運転中、本件事故を惹起したこと、被告晴彦は、早くパーテイーをしたいとのお互の気持から行き帰りともかなりの速度を出していたが、亡雅好らもそんなに速度を出す車には乗つていられないとか、速度を出しすぎたからと注意を与えることはなかつたことが認められる。

右認定にかかる事情のもとにあつては、本件事故は、ひとり被告晴彦の過失によるものとは云い難く、同乗者で行先案内者であつた亡雅好にも速度の出しすぎを助長させたとの過失があり、それが本件事故発生の一因があるといわねばならず、損害額の算定にあたつては、その二割を減額するのが相当と認める。

してみれば、前記認定の各損害額(合計三二二六万七五二一円)に二割の過失相殺をした金額(合計二五八一万四〇一六円)が被告晴彦において賠償すべき損害金である。

そして、原告らが、亡雅好の前記1、2、4の各損害賠償請求権を法定相続人に従い、二分の一宛相続したことは当事者間に争いがない。

8 損害の填補

原告らが、自動車損害賠償責任保険金二〇二七万六七七五円を受給したこと、被告晴彦が原告らに対し一〇〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがないから、これらは前記各損害金に充当すべく、結局、原告らは、被告晴彦に対し右各損害金残額四五三万七二四一円の支払を求めることができる。

9 弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり、本件事案の内容、請求認容額その他本訴にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある損害として被告晴彦に負担させるべき費用としては四五万円が相当である。

三  結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告晴彦に対し、以上損害金合計四九八万七二四一円及びこれから弁護士費用を除いた四五三万七二四一円に対する本件事故の日の翌日である昭和五三年一一月一一日から、弁護士費用四五万円に対する本裁判確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、被告請求に対するその余の請求及び被告岸田、同博に対する請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鐘尾彰文)

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